腰痛の原因が分からないと言われたら|それでもできること
- 腰が痛くて受診したのに、「異常なし」と言われた方
- 原因が分からないまま、何をしていいか分からなくなっている方
- 腰が心配で、動くこと自体を控えてしまっている方
「レントゲンでは異常なし、と言われました」
腰の相談で、いちばんよく聞く言葉かもしれません。
そして多くの方が、そのあとにこう続けます。
「原因が分からないので、どうしたらいいか分からなくて」
実は私自身も、腰痛の多くは原因が分からないものだと思っていました。ところが日本の腰痛診療ガイドラインを読むと、話は少し違っていました。
先にお伝えします。「原因が分からない」は、「原因がない」という意味でも、「どうしようもない」という意味でもありません。
この記事の結論を先にお伝えします
- 「腰痛の85%は原因不明」という数字は、根拠が見直されている
- 痛みを怖がって動きを制限しすぎることが、長引かせる要因になる
- 長く続く腰痛には、運動が強く勧められている
- ほかより効果的な運動はあるが、続けられることのほうが優先
「原因が分からない」は「原因がない」ではない
「腰痛の85%は原因不明」。よく見かける数字です。
ところが日本の『腰痛診療ガイドライン2019』は、この数字についてこう書いています。
その根拠は米国の総合診療医の情報を統合したものであるため、その正確性と詳細は不明であった
そのうえで、日本で行われた調査を紹介しています。山口県の整形外科外来を受診した腰痛の方320人を対象に、原因を詳しく調べたものです。
結果は、78%で原因が特定できました。
| 腰痛の原因 | 割合 |
|---|---|
| 椎間関節性 | 22% |
| 筋・筋膜性 | 18% |
| 椎間板性 | 13% |
| 狭窄症 | 11% |
| 椎間板ヘルニア | 7% |
| 仙腸関節性 | 6% |
| 原因が特定できなかったもの | 22% |
ただし、ここは正直にお伝えしておきます。
この研究では、参加者全員に、椎間板・椎間関節・仙腸関節へのブロック注射を2回ずつ行っています。
腰の関節が痛みの原因かどうかは、レントゲンやMRIでは分かりません。麻酔を注射して痛みが消えるかどうかで判定します。
つまりこの78%は「そこまで調べればここまで分かる」という数字であって、「受診すれば分かる」という数字ではありません。
なぜ、普通はそこまで調べないのか
手を抜いているわけではありません。理由が2つあります。
ひとつは、ガイドラインに紹介されているこの報告です。
重篤な状態が明らかでない腰痛患者に対してはルーチンに画像検査を行っても画像検査を行わなかった場合と比較し臨床結果に改善はなかった
危険な病気が疑われない腰痛では、詳しく検査をしても、その後の経過が良くなるとは限らないということです。画像検査ですらそうなのですから、針を刺す検査となれば、なおさら慎重になります。
そしてもうひとつが、この記事の後半につながる理由です。
原因が椎間関節であっても、筋肉であっても、最初にやることは大きく変わらないからです。

「異常なし」と言われたのは、「原因がない」という意味ではありません。通常の診察で分かる範囲では見つからなかった、ということです。
痛みを怖がって動かないことが、腰痛を長引かせる
ここからが、私の領分の話です。
腰に不安がある方を見ていて、強く感じることがあります。痛みを怖がって、動きを制限しすぎているということです。
気持ちは分かります。どこが悪いのか分からないまま動くのは、怖いですから。
ただ、ガイドラインには恐怖回避思考という言葉が出てきます。定義はこうです。
痛みに対する不安や恐怖から身体活動を過剰に制限すること
そして、この考え方が強い方は、腰痛の経過が悪くなりやすいことが報告されています。ガイドラインは、恐怖回避思考を改善させる早期の介入が、腰痛の慢性化を防ぐことを期待できるとしています。
※この関係が確かめられているのは、発症からおよそ1か月〜3か月の時期です。発症直後や、3か月以上続いている腰痛では、経過を左右する要因とまでは言えないとされています。
また、急性の腰痛については、ガイドラインにこう書かれています。
急性腰痛に対しては、安静よりも活動性維持のほうが有用である
じっと寝ているより、痛みに応じて動いていたほうがいいということです。
※ただし、お尻から脚にかけて痛みやしびれが出ている場合(坐骨神経痛を伴う腰痛)は、安静と活動性維持で明らかな差はないとされています。
腰をかばうと、腰以外も動かさなくなる
もうひとつ、指導していて気づくことがあります。
「腰が悪いから」という理由で、腰と関係のない運動まで、まとめてやめてしまっている方がいらっしゃいます。
腰に不安があっても、座ったままできることも、寝たままできることもあります。それなのに、腰を理由に全部が止まってしまう。
動かない時間が長くなることそのものが、体に残していくものもあります。ダイエット以前に見直したい、「座りっぱなし」が体に残すものもあわせてご覧ください。
慢性腰痛には、運動が強く勧められている
では、動いたほうがいいという話には、どれくらいの裏付けがあるのか。
ガイドラインの推奨文は、こうです。
慢性腰痛に対する運動療法は有用である
| 項目 | ガイドラインの評価 |
|---|---|
| 推奨の強さ | 1:強い(行うことを強く推奨する) |
| エビデンスの強さ | B:効果の推定値に中程度の確信がある |
| 委員の合意率 | 90.9% |
長く続いている腰痛に対して、運動はいちばん強い推奨を受けています。
日本で行われた研究も紹介されています。体幹の筋力強化とストレッチを1日2セット以上行うグループと、痛み止めを飲むグループを比べたところ、痛みの強さや体の柔らかさには差がなかったものの、腰痛に関わる生活の質は、運動をしたグループで有意に良くなっていました。
※一方で、発症したばかりの急性腰痛と、そこから数週間の亜急性腰痛については、運動療法の効果は「エビデンスが不明」とされています。強く勧められているのは、あくまで長く続いている腰痛に対してです。
腰痛の運動は、正解探しより続けられるかで選ぶ
「腰痛にいい体操はありますか」
これも、よくいただく質問です。
先に結論をお伝えします。ほかより効果的だと報告されている運動は、あります。ただし、その差は決定的なものではありません。
そして、その差を見つけた研究の著者自身が、こう述べています。
慢性腰痛のある人には、続けられるように、本人が楽しめる運動を勧めるべきである
差はある。でも、続けられなければ意味がない。そう結論しているのは、差を見つけた研究者のほうです。
根拠になった研究の中身(読みたい方はこちら)
日本の『腰痛診療ガイドライン2019』には、こう書かれています。
現時点では効果的な運動療法の種類を明確に示す論文はなく、運動療法の長期的な効果は明らかになっていない
ただし、これは2019年時点の記述です。その後、これより大きな研究が出ています。
2021年に発表されたネットワークメタ分析は、217件の試験・約21,000人分のデータをまとめたものです。そこでは、ピラティス、マッケンジー法、機能回復訓練、体幹の筋力強化が、ほかの運動より効果的だったと報告されました。
ここでいう「体幹の筋力強化」は、腹筋運動のことではありません。この研究の分類では、背骨と骨盤まわりを狙った運動を指し、バランスをとる動きや、体を安定させる動きも同じくくりに入っています。一方、全身を鍛える一般的な筋トレは、別のくくりとして扱われています。
そのうえで、押さえておきたいことが2つあります。
- この差の確実性は「低い〜中程度」と評価されている。運動どうしを直接比べた試験が少なく、間接的な比較に頼る部分があるため
- マッケンジー法と機能回復訓練は、専門家のもとで行うプログラム。名前を知っても、一人で始められるものではない
差が確実で決定的なものであれば、著者らも「これをやりなさい」と書いたはずです。そうせずに「続けられるものを」と結んでいるのが、この研究の答えだと考えています。
「姿勢が悪いから」も、確かな説明ではない
腰痛の説明としてよく聞く「姿勢が悪いから」についても、触れておきます。
姿勢と腰痛の因果関係を調べた研究をまとめた報告では、結論は一致していません。関連があるとする報告もあれば、ないとする報告もある、という状態です。
姿勢を整えることに意味がない、という話ではありません。ただ、「姿勢さえ直せば腰痛が消える」と考えて、そこで止まってしまうのはもったいないということです。

「これさえやれば」という正解を探して、何も始められないまま時間が過ぎてしまう。それが、いちばんもったいない状態です。
ですので私は、正解の種目を先に決めることはしません。その方が痛みなく動ける範囲を、一緒に確認しながら決めていきます。
同じ考え方は、膝についても書いています。膝が痛いときも運動していい?|動かしていい場合・休むべき場合もご覧ください。
運動より先に、受診してほしい場合
ここまで「動いたほうがいい」と書いてきましたが、そのまま動いていい状態かどうかは、自己判断できません。
ガイドラインには、腫瘍・感染・骨折といった重い病気が隠れている可能性を疑うべきサインが挙げられています。危険信号と呼ばれるものです。
ガイドラインが挙げている危険信号
- 発症年齢が20歳未満、または55歳を超えている
- 時間や活動性に関係なく痛む
- 胸の痛みを伴う
- がん、ステロイド治療、HIV感染の既往がある
- 栄養状態が良くない
- 体重が減ってきている
- 広い範囲にしびれや麻痺がある
- 背骨の形が明らかに変わっている
- 発熱を伴う
1つ当てはまるだけで危険、というものではありません。
年齢の項目などは、多くの方が当てはまります。ガイドラインも、複数が重なるときに特に注意を払うという書き方をしています。
ただ、体重が減ってきている、発熱がある、広い範囲がしびれるといったものが腰痛と一緒に出ているときは、運動より先に整形外科へ。ここは私の領分ではありません。
まとめ
- 「腰痛の85%は原因不明」という数字は、根拠が見直されている
- 徹底的に調べれば特定できることも多いが、通常はそこまで行わない
- 「異常なし」は「原因がない」ではない
- 痛みを怖がって動きを制限しすぎることが、経過を悪くする
- 長く続く腰痛には、運動がいちばん強く勧められている
- 効果的とされる運動はあるが、差は決定的ではない。続けられるものを選ぶ
原因がはっきりしないと、動くのが怖くなります。何をしていいか分からなくなります。
でも、原因が分からないことと、打つ手がないことは、別の話です。
正解の体操を探して止まっているより、続けられるものを、動ける範囲で。それだけで、数年後の体はかなり変わります。
腰に不安がある方も、一度ご相談ください
「異常なしと言われたけれど、どう動いていいか分からない」
「腰をかばっているうちに、運動から遠ざかってしまった」
そんな方は、一度ご相談ください。
まちの隠れ家ジム宿河原では、その日の状態を見ながら内容を決めています。受診が必要だと判断した場合は、そうお伝えします。
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